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企業に義務付けられているストレスチェック制度を徹底解説

ストレスチェック制度とは、企業などが定期的に労働者のストレス状況を検査、分析、改善するもので、労働安全衛生法によって義務化されています。企業がストレスチェックを行うことによって、労働者のメンタルヘルス不調を予防できたり職場環境を改善できたりします。この記事では、ストレスチェック制度の概要や、義務化された背景、どのように実施すればよいかなどについて解説します。

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ストレスチェック制度とは

そもそも「ストレスをチェックすること」とは何なのかについて解説します。さらにストレス調査票について紹介します。

「ストレスをチェックすること」とは

ストレスチェックという言葉のそのままの意味は、労働者が抱えるストレスを企業側がチェックすることなのですが、それとは別に法律上の意味もあります。ストレスチェック制度の根拠法になっているのは、労働安全衛生法第66条の10で、次のように書かれてあります。

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない
労働安全衛生法第66条の10(*1

ここでいうストレスとは、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスのことです(*2)。

なぜストレスが問題になるのかというと、メンタルヘルス不調が起きるからです。厚生労働省はメンタルヘルス不調のことを「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」と定義しています(*3)。悩み不安から自殺まで含む広い概念であることがわかります。

ストレスチェックはメンタルヘルス不調に関する3つの対策のうち、1次予防に含まれます。3つの対策は以下のとおりです。

<3つのメンタル不調対策>

  1. 労働者自身のストレスへの気づき、ストレス対処への支援、職場環境の改善を通じてメンタルヘルス不調を未然に予防する1次予防
  2. メンタルヘルス不調を早期に発見して適切な対応を行う2次予防
  3. メンタルヘルス不調になった労働者の職場復帰を支援する3次予防

ではどのようにストレスをチェックして、1次予防につなげていくのでしょうか。企業側がストレスチェックで「すること」はこちらになります。

<ストレスチェックですること>

  • 定期的に労働者のストレス状況を検査する
  • 本人にその結果を通知して自らのストレス状況について気づいてもらい、ストレス低減につなげてもらう
  • 検査結果を集団ごとに集計、分析して、職場におけるストレス要因を評価して職場環境を改善する

ここから「チェックすればそれでよい」とはならないことがわかります。労働者本人に気づきを与え、ストレスの状況を分析し、職場環境を改善することまでがストレスチェックになります。

「ストレス調査票」とは労働者自身が記入するチェック票のこと

ストレスチェックの重要ツールの1つに、労働者自身がストレスについて記入する「ストレスチェック調査票」というものがあります。

厚生労働省はストレスチェック調査票の見本として「職業性ストレス簡易調査票」を用意していてこれをそのまま使うこともできます(*4)。労働者にこれを配布して記入してもらいます。

職業性ストレス簡易調査票では例えば「非常にたくさんの仕事をしなければならない」という質問があり、労働者は「そうだ・まあそうだ・やや違う・違う」と回答します。

質問は計57あり、主な質問は次のとおりです。

<職業性ストレス簡易調査票の主な質問>

  • 時間内に仕事が処理しきれない
  • 一生懸命働かなければならない
  • かなり注意を集中する必要がある
  • 高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ
  • 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない

企業側が労働者に調査票を配布して記入してもらい、回収することが「ストレス状況の検査」になります。企業側はさらに、その検査結果を集計、分析しなければなりません。

ストレスチェック制度が義務化された背景

ストレスチェック制度がつくられた背景には、労働者のメンタルヘルス不調の深刻化があります。

労働者のメンタル問題や心の病問題の実例は数え上げられないほど沢山あり、例えば独立行政法人労働政策研究・研修機構の2012年の「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」によると、正社員に占めるメンタルヘルス不調者の割合は56.7%にも達します(*5)。正社員1,000人規模の大企業になるとその割合は72.6%にもなります。

 そこで国は、2014年に労働安全衛生法を改正、2015年からストレスチェック制度を企業などに義務化しました。

なお義務化の対象となる企業などは、労働者が50人以上いる事業所です。

ストレスチェック制度では労働基準監督署への報告が義務化されていて、これを怠ると罰則が適用されます(*6)。

ストレスチェックの実施に関して

企業はストレスチェックを、次の4つのステップで進めていきます(*7)。

  • ステップ1:導入前の準備
  • ステップ2:ストレスチェックの実施
  • ステップ3:面接指導の実施と就業上の措置
  • ステップ4:職場分析と職場環境の改善

「ステップ1:導入前の準備」では、企業側が労働者に対して、メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する旨の方針を示します。さらに社内の衛生委員会でストレスチェックの方法などを話し合います。

「ステップ2:ストレスチェックの実施」では、先ほど紹介したストレス調査票を使います。労働者に配布して記入してもらい、それを回収して集計、分析します。

なおストレスチェックの実施者は医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士のなかから選ぶ必要がありますが、社内に該当する人がいなければ外部委託することができます。

「ステップ3:面接指導の実施と就業上の措置」では、医師による面接指導が必要とされた労働者から申し出があったときに、医師に依頼して面接指導を行います。

企業側は、面接指導を実施した医師から就業上の措置の必要性の有無とその内容について意見を聴き、それを踏まえて労働時間の短縮など必要な措置を講じます。

「ステップ4:職場分析と職場環境の改善」では、ストレスチェックの分析結果を踏まえて職場環境の改善に取り組みます。

実施上の注意点

ストレスチェックを実施するときは次の点に注意してください(*7)。

  • 労働者の個人情報が適切に保護され不正な目的で利用されないようにする
  • ストレスチェック実施者などには法律で守秘義務が課され違反した場合は刑罰の対象となる
  • ストレスチェック結果や面接指導結果などの個人情報は、適切に管理し社内で共有する場合は必要最小限の範囲にとどめる
  • 次のことを理由に労働者に対して不利益な取扱いを行ってはならない
    • 医師による面接指導を受けたい旨の申出を行ったこと
    • ストレスチェックを受けないこと
    • ストレスチェック結果の事業者への提供に同意しないこと
    • 医師による面接指導の申出を行わないこと
  • 面接指導の結果を理由として、解雇、雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換・職位の変更を行ってはならない

ストレスチェックは労働者のプライバシーに関わることが多いので、その取り扱いには十分注意しなければなりません。また、労働者が積極的にストレスチェックを受けたくなるような雰囲気づくりも大切です。

まとめ~労働者を守り会社を守る

企業は労働者のストレスをチェックしなければなりません。それはストレスがメンタルヘルス不調の引き金になるからであり、そして、労働者のストレスの多くは社内で発生しているからです。

ストレスチェックは企業が「やらなければならないこと」ですが、これを手間やコストと考えないほうがよいでしょう。なぜなら企業経営が人ありきであることを考えると、労働者の健全化は経営の健全化に他ならないからです。元気な労働者あってこそ成長できる企業ですので、労働者を守ることは会社を守ることになります。

経営者や総務部長などは、ストレスチェックの実施とその後のフォローを徹底して労働者を守っていきましょう。


*1 労働安全衛生法 (e-gov法令検索)

(リンク:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057

(最終アクセス:2022/4/13)

*2 労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル (厚生労働省労働基準局安全衛生部 労働衛生課産業保健支援室)

(リンク:https://www.mhlw.go.jp/content/000533925.pdf

(最終アクセス:2022/4/13)

*3 メンタルヘルス不調(厚生労働省)

(リンク:https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1844/

(最終アクセス:2022/4/13)

*4 職業性ストレス簡易調査票(厚生労働省)

(リンク:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/dl/stress-check_j.pdf

(最終アクセス:2022/4/13)

*5 職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

(リンク:https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0100.pdf )

(最終アクセス:2022/4/13)

*6 ストレスチェック制度関係 Q&A(目次)

(リンク:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-2.pdf

(最終アクセス:2022/4/13)

*7 ストレスチェック制度導入マニュアル(厚生労働省)

(リンク:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf )

(最終アクセス:2022/4/13)

執筆者
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。
北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。
取材した分野は、政治、経済、過疎化、ワーキングプアなど。
現在の執筆領域は、法務、総務、人事、会計、IT、AI、金融、ビジネス全般、抗がん剤、生活習慣病治療など。
趣味はバイクと登山。北海道札幌市在住。

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