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【法改正シリーズVol.2】2022年から段階的に施行される『育児・介護休業法』の改正に関して
「人事関連法改正シリーズ」の第2弾は「育児・介護休業法の改正」について取り上げます。ここでは2022年から段階的に施行される改正内容をわかりやすくまとめております。また、育児や介護の休業取得の現状や「イクメンプロジェクト」、「トモニン」マークについてなど、多角的に育児・介護に関する情報を掲載しております。ぜひ、4月の改正目前にご活用くださいませ★
2022年4月以降の育児介護休業法の改正内容について
「育児・介護休業法」が2021年6月1日に改正され、2022年4月1日から2023年4月1日にかけて、段階的に施行されます[a]。この章では、どのような内容が改正されるかを施行時期に合わせて順番にまとめております。是非この機会にご活用ください。
<2022年4月1日施行>
①育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産直後の労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け
- 育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置
- 本人又は配偶者が妊娠・出産の申出をした場合、事業主から個別の制度周知及び休業の取得以降の確認のための措置
②育児休業の取得の状況の公表の義務付け
- 常時雇用する労働者数が1000人超の事業主に対し、育児休業の取得の状況について公表を義務付けます。
<2022年10月1日施行>
③男性の育児・介護休業取得促進のための子の出産直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設
- 休業の申出期限は原則休業の2週間前までとします。※現行の育児休業(1か月)よりも短縮
- 分割して取得できる回数は2回までとします。
- 労使協定を締結している場合に、労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上で休業中に就業することが可能になります。
④育児休業の分割取得
- 育児休業(③の休業を除く)について、分割して2回まで取得することを可能にします。
<2023年4月1日施行>
⑤有期雇用労働者の育児・介護取得要件の緩和
- 有期雇用労働者の育児休業・介護休業の取得要件であった「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件を廃止します。ただし、労使協定を締結した場合には、無期雇用労働者と同様に事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外することを可能にします。
⑥育児休業給付に関する所要の規定の整備
- ③、④の改正を踏まえ、育児休業給付についても所要の規定を整備します。
※出産日のタイミングによって受給要件を満たさなくなるケースを解消するため、被保険者期間の計算の起算点に関する特例を設けております。
育児・介護休業法とは
概要
育児・介護休業法は、「育児休業、介護休業育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」と略称で記させて頂きます。)として、1995年10月1日[a]に施行されました。介護部分については1999年4月1日から追加で施行されました[b]。もともとこの法律は1972年に「勤労夫人福祉法」が施行された際に「育児休業等育児に関する便宜の供与」が事業主の努力義務として規定されたことが始まり[c]です。この「勤労夫人福祉法」は1986年に「男女雇用機会均等法」に名称が変更されています。その後1992年4月1日に「育児休業等に関する法律」として独立して施行されました。この法律が制定された目的は「育児・介護休業法」第1条[b]で以下のように記されています。
- 育児又は家族の介護を行う労働者が 退職せずに済むようにし、その雇用の継続を図る。
- 育児又は家族の介護のために退職した労働者の再就職の促進を図る。
- 育児及び家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することによって、その福祉を増進し、日本の経済及び社会の発展に資する。
これらの目的の達成のため、常に時代に合わせて改正等が行われています。
育児休業と介護休業の内容
法律の中身としては、「育児・介護休業等に関する規則の規定例」[d]というパンフレットで表記されています。対象である有期雇用労働者の範囲として、育児休業と介護休業それぞれで以下のように指定されています。ちなみに従業員数に関わらず、すべての事業所が法律の適用対象となっております。
<育児休業>
育児休業制度としては、原則1歳未満の子を養育する際に休業をできると規定されています。休業は原則1回まででしたが2022年10月1日以降は2回に分割できます。対象範囲は申し出の時点で以下の2点の両方を満たす方と規定されています[d]。
①同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
②子が1歳6か月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと
2022年4月1日以降は、①の要件が撤廃され、②範囲のみ満たす方と改正されます。
<介護休業>
介護休業制度では、要介護状態にある家族を介護するために、通算93日まで、3回を上限に分割して休業をすることができます。対象範囲は申し出の時点で以下の2点の両方を満たす方と規定されています[d]。
①同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
②介護休業開始予定日から93日経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと
育児休業と同様、2022年4月1日以降は②範囲のみ満たす方と改正されます。
育児・介護取得の現状について
1995年から施行され、幾度となく改正が行われてきた「育児・介護休業法」ですが、実態はどのようになっているのでしょうか。ここでは「育児休業取得率」、「介護休業制度の利用率」、「介護による離職の割合」に着目して現状をまとめていきます。
育児休業取得率の推移
現状の育児取得率について、厚生労働省監修の「令和2年度雇用均等基本調査」[g]の事業所調査の結果によると、女性の育児休業取得率に関しては2007年以降80%以上を維持し続けております。また、2020年では81.6%であり、2019年の83%より1.4%減少しています。
一方、男性の育児休業取得率に関しては、2020年は12.68%であり、政府目標の13%には届かなかったものの、2019年の7.48%より5.17%上昇しています。女性と比較すると、男性の取得率は低いが、徐々に男性の育児休業取得率が上がっていることがわかります。政府は2020年5月に策定された「少子化社会対策大綱」で男性の育児休業取得率の目標を30%と閣議決定[h]しております。今後さらに男性の育児休業取得率を伸ばしていくために引き続き国でも対策が講じられると予想されます。
介護の割合と介護休業制度の利用の割合
(2)介護の割合と介護休業制度の利用の割合
「平成29年就業構造基本調査」[i]の結果によると、有業者で介護をしている人が3,463,200人であり、15歳以上有業者全体の約5.23%の方が介護をしているということがわかります。その中でも、介護休業制度を利用したことのある人は259,000人に止まっております。これらの値から、介護している人のうち介護休業制度を利用している方の割合は7.48%、全体のうちの0.39%のみが介護休業制度を利用しているということがわかります。このことから、介護休業制度の利用は2017年時点ではあまり多くないといえます。
【有業者における「介護」と「介護休業等制度利用」の有無の総数】
介護による離職の割合
少子高齢化の進行にあたり、今後日本では、超高齢化社会を迎え、介護離職者の増加が予想されます。少し古いデータとなりますが、「平成29年就業構造基本調査」[h]によると、「介護・看護を理由に離職した者」は、調査対象年の2016年10月から2017年9月の過去1年間で99,000人となっております。そのうち、男性は24,000人、女性は75,000人となっております。この数値は、同年に前職を離職した者全体のうち1.8%を占めます。
また、「令和2年雇用動向調査」[j]によると、介護・看護を理由とする離職率に関して、2020年および2019年ともに65歳以上の方の離職率が特に高いといえます。男性も女性も高齢者による介護割合は増加していると読み取ることができます。
今後、これらの値は、社会の高齢化が進むにあたるにつれ、ますます介護離職も深刻になっていくと予想されます。
【介護・看護を理由とする離職率】
厚生労働省の施策
イクメンプロジェクト
男性の子育て参加や育児休業取得の促進等を目的とした「イクメンプロジェクト」を2010年6月17日より始めました[k]。「イクメン」とは、「子育てを楽しみ、自分自身も成長する男のこと」と定義されています。こちらのプロジェクトでは、主に3つのメリットが挙げられます。
①男性社員の育児休業取得に貢献した企業の表彰
イクメンプロジェクトの公式ホームページでは、体験談の掲載やイベントの告知だけでなく、男性社員の育児休業取得に貢献した企業の表彰も行っております。表彰された企業は、職場情報総合サイト「しょくらぼ」等で受賞履歴が公表されるので、自社のPRや社会信頼向上などにつながります。
②育児にまつわるセミナーの参加
プロジェクトでは、お産へのかかわり方や妻への接し方等、育児にまつわるセミナーが随時開催されています。これらのセミナーは全国各地で開催されており、申請すれば出前講座の受講もできるため、多くの男性がセミナーを通して育児に関して学ぶことができます。
③イベントの参加による交流
イクメンフェスやスピーチ甲子園などのイベントが行われており、全国のイクメン同士が楽しみながら交流を図ることができます。これらの活動を通じて厚生労働省は、産後パパ育休や企業の取り組みなどが社会に浸透・定着し、あらゆる職場で男性が育児休業をとるのは当然となることを目指しております。ちなみにイクメンプロジェクトの特設サイトのURLを以下に張り付けておきます。
※イクメンプロジェクト特設サイト: https://ikumen-project.mhlw.go.jp
「トモニン」マークの活用
介護離職の気運に伴い、仕事と介護の両立を促進する企業がつけられる「トモニン」というシンボルマークを厚生労働省は作成いたしました。こちらのマークは「両立支援のひろば」[l]に登録すれば認定手続きなどは一切不要で手数料無料で取得できます。「トモニン」マークの使用によるメリットとしては、労働者募集の採用や企業のイメージアップ、取り組みの紹介の活用などが挙げられます。
※両立支援の広場:両立支援のひろば
まとめ
「育児・介護休業法」は育児または家族の介護を行う労働者の雇用を守るために作成されたものであり、時代に合わせて改正が行われてきました。特に、2022年4月以降に段階的に施行される「改正育児・介護休業法」では、育児休業の取得しやすい環境の整備や、有機雇用労働者の育児・介護取得要件の緩和などが改正されます。幾度となる「育児・介護休業法」の改正により、男性の育児休業取得率は上がってきてはいるものの、いまだ女性と比較すると低い数値となっております。また、介護面においては、介護休業制度の取得の割合も低い状況が続いております。さらに、高齢化や核家族化が進み、今後高齢者が高齢者を介護する老々介護が増加傾向にあり、「介護離職」の増加も社会問題となりました。こうした現状を踏まえ、厚生労働省では、「イクメンプロジェクト」を通した男性育児取得率の引き上げや、「トモニン」マークによる仕事と介護の両立を支援する企業を増やす取り組みなどを行っております。
「育児・介護休業法」の改正に伴い、事業主は育児・介護による離職を防止するために、雇用環境の整備や就業規則の変更、育児・介護休業に関する研修などの対策に取り組むことが義務化されます。雇用環境の整備に関しては個別の周知や意向確認が必要となってきます。また、就業規則の変更に関しては、「引き続き雇用された期間が1年以上」という文言の削除や、変更した就業規則の周知、さらに常時10人以上を使用する事情場は労働基準監督署へ届ける必要があります。法改正によるこれらの活動を通して、育児・介護による離職者を減らし、誰もが働きやすい環境にしていくことが求められています。
※「家庭と仕事の両立支援ポータルサイト」に企業の取り組み事例が掲載されています。施策をどのようにしたらいいかお悩みの方はぜひご活用くださいませ。
- 東京都における育児と仕事の両立の取り組み事例
:https://www.katei-ryouritsu.metro.tokyo.lg.jp/ikuji/jirei/index.html
- 東京都における介護と仕事の両立の取り組み事例
:https://www.katei-ryouritsu.metro.tokyo.lg.jp/kaigo/jinji-4/index.html
注[a] 育児・介護休業法について(厚生労働省)
(リンク:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html )
(最終アクセス:2022/2/28)
注[b] 育児・介護休業法のあらまし(2022年11月作成)(厚生労働省)
(リンク:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103504.html )
(最終アクセス:2022/2/28)
注[c] 育児・介護休業法(公益財団法人 日本女性学習財団)
(リンク:https://www.jawe2011.jp/cgi/keyword/keyword.cgi?num=n000007&mode=detail&catlist=1&onlist=1&shlist=1 )
(最終アクセス:2022/2/28)
注[d] 育児・介護休業等に関する規則の規定例(厚生労働省)
(リンク:https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/35.html )
(最終アクセス:2022/2/28)
注[e] 第2節 育児休業制度等についての取組を推進する(平成17年版 少子化社会白書)(内閣府)(リンク:
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2005/17webhonpen/html/h2220100.html )(最終アクセス:2022/2/28)
注[f] 図 育児・介護休業法の主な改正内容(「共同参画」2010年 6月号)(内閣府男女共同参画局)(リンク:
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2010/201006/hyou_p13.html )
(最終アクセス:2022/2/28)
注[g] 令和2年度雇用均等基本調査(厚生労働省)
(リンク:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r02.html )(最終アクセス:2022/2/28)
注[h] 男性の育児休業取得促進等に関する参考資料(厚生労働省)
(リンク:https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000687801.pdf )(最終アクセス:2022/3/7)
注[i] 平成29年就業構造基本調査(総務省統計局)
(リンク:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200532&tstat=000001107875&cycle=0&tclass1=000001116995&tclass2val=0 )(最終アクセス:2022/3/2)
注[j] 令和2年雇用動向調査結果の概要(厚生労働省)(リンク:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/index.html )
(最終アクセス:2022/3/2)
注[k] イクメンプロジェクトサイト(厚生労働省)(リンク:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/35.html )(最終アクセス:2022/3/3)
注[l] 両立支援の広場(厚生労働省)(リンク:https://ryouritsu.mhlw.go.jp/index.html )(最終アクセス:2022/3/4)
- 執筆者
- リーガルワーク転職 編集担当
法改正シリーズ第2回目は「育児・介護休業法改正」について取り上げました。育児に関しては、巷では「イクメン」という言葉を耳にしますが、2010年のユーキャン新語・流行語大賞になったほど、男性の育児参加が徐々に広がりつつあるように感じます。介護に関しては、介護職の国内の人材不足から、外国人労働者の受け入れが推奨されています。このように育児も介護も時代の変化に合わせ適宜対応していくことが求められるとこの記事を描きながら実感させられました。(ぜひ、みなさんも育児休暇を積極的に取得していきましょう!)
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