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日本の少子高齢化に伴う労働力不足の実態と対策

少子高齢化が進むにつれ、深刻な労働力不足が新たな問題として浮上しています。それに伴い、企業では人材の確保が難しくなっています。このような状況下において、若者の失業の高さの実態は?今後どのような採用の傾向へと移行するのか人材を確保するための新たな考え方とは?などを考察しながら、日本の少子高齢化と労働力不足問題についてまとめていきます。

日本の少子高齢化に伴う労働力不足の実態と対策

日本の出生率の低下と少子高齢社会

総務省の統計によると、2019年10月1日時点での日本の総人口は1億2,616万7千人aであり、前年に比べ27万6千人も減少しています 。これは前年度のみならず、過去9年連続で減少しており、日本の人口は衰退を辿っていることがわかります。国の推計によると、2053年には1億人を下回り、2065年には8,808万人まで減るといわれています。

出生率(人口千対)に関しては、2019年においては7.0%であり、これは2010年の8.5%と比べて1.5%減少していることがわかります 。このような結果から人口減少が見込まれ、少子化と高齢化がますます進行していくこととなります。

年齢別の人口に至っては、2021年11月1日において0~24歳までの総人口が2,663万人aに対し、60歳以上の総人口は4,376万人aとなっております。このことから、現在の日本は高齢者が若年層の1.6倍近く占めていることがわかります。また、今後出生率が減少し続けることにより、より若年層の人口が減少していくことが予想されます。

※資料「人口推計」(総務省統計局)(2021年12月21日アクセス)を加工して作成

※資料「令和3年度 人口動態統計特殊報告 出生に関する統計」(厚生労働省 人口動態・保険社会統計室)
(2021年12月21日アクセス)を加工して作成。

生産年齢人口の減少

日本の総人口の少子高齢化の割合を見てきましたが、ここで労働人口という観点で切り替えると、日本の労働力不足の深刻さを理解することができます。

日本の出生率の減少は、国内の生産年齢人口の減少にもつながります。生産年齢人口とは経済協力開発機構(OECD)によると「生産活動を中心となって支えている人口」を意味し、主に15~64歳の年齢と定義しています。厚生労働省によると、15~64歳の日本の生産年齢人口の総数を見てみると、2021年10月の段階において5,904万人dということがわかります。

また、同年同月の就業者数という観点では、生産年齢人口は5,738万人eとなりますが、一方で、失業数では、166万人 f となっております。

若者の失業率

ここで注目してほしいのが、25~34歳における就業者と失業者の人数の割合です。2021年10月において、労働の意思と労働可能な能力を持った15歳以上の人口を示す労働者人口が1,136万人dに対し、就業者数が1,097万人e、失業者数が39万f人となっております。これは35歳~44歳の失業者数の28万人と比べて11万人も多いということがわかります。このように若者ほど失業率の上昇が大きいということがわかります。

「労働力調査」および「JILPTg個人調査」の2つの調査においても中高年層に対して若年層のほうが失業しやすいという結果が出ています。このような結果の背景として、2020年ごろ始まったコロナの影響を大きく受けた宿泊業飲食店で働いている人、非正規労働者などが特に20代~30代にかけて多いということが一例として挙げられます。

15~24歳25~34歳35~44歳45~54歳55~64歳合計
労働者人口(単位:万人)5601,1361,3521,6631,1935,904
就業者数(単位:万人)5361,0971,3241,6221,1595,738
失業数(単位:万人)2439284134166
完全失業率(単位:%)4.293.432.072.472.85

※資料「2021年10月調査/労働力調査 労働力調査 / 基本集計 全都道府県 / 結果概要」(総務省統計局)(2021年12月21日アクセス)を加工して作成。

大卒求人倍率の調査結果による中小企業の新卒採用の傾向

2021年に行われたリクルートワークス研究所で行われた「第38回 ワークス大卒求人倍率(2022年卒業予定)h」の調査結果 によると、従業員規模300人未満企業における有効求人倍率が前年と比べて上昇したということがわかります。(ちなみにここで指す大卒求人倍率は、大学院卒生も含みます。)

300人未満の従業員数の企業の大卒求人倍率は、2021年3月卒では3.4倍なのに対し、2022年3月卒では5.29倍となっておりますh。このことから、2021年から2022年にかけて従業員数の300人未満規模の中小企業の希望者が減少していることがわかります。

一方で、2022年3月卒における5,000人以上の企業の大卒求人倍率は0.4倍であり、300人未満の従業員数の企業と比べて4.89もポイントの差がありますh

これらの結果から、以前に増して中小企業の希望者数は大手企業と比べると減少しており、中小企業が新卒を採用することは依然として難しい状況にあるといえます。

そのような背景から中小企業は新卒の一括採用や中途採用においても年度の区切りなどキリのいいタイミングで一斉に実施するというケースの多い採用活動から、時期の制限を設けずに採用活動を実施する「通年採用」などに切り替えるなどの柔軟な対応が見られます。

労働力不足の対策

少子高齢化に伴い、現状通りの人員確保は以前にも増して難しくなってきています。特に出生率の低下に伴い、若年層の採用が難しくなっていくことが今後も予想されます。

このような国内の人口変化において、企業は確実に労働力を確保し、業務を遂行していくために、今までの採用に加え新たな視点で対策に興じる必要が出てくるでしょう。ここでは主に「新たな人材の採用」と「生産性の向上」という2つの観点で対応策を述べていきます。

新たな人材の採用

20~30代の未経験者の雇用
日本の採用システムにおいて正規雇用においては「新卒採用」と「中途採用」が主流にあります。一方で「第二新卒」という採用システムも徐々に広がってきています。

「第二新卒」とは、マイナビジョブ20‘sにおいて、「学校を卒業後1~3年で、転職または就職を志す若年の方々(25歳前後)i」 と定義されています。その中には派遣社員や契約社員として社会人経験のある方なども含まれます。「第二新卒」などを含めた20代~30代の転職者は30代以降の人と比べて経験値が浅いということが挙げられます。企業としては若年層を雇うにしても、経験者を雇いたいと考えがちかもしれません。

しかし、若年層の確保を目指すとしたら、今後は経験者だけでなく、「第二新卒」をはじめとする、未経験者やキャリアチェンジの採用者を増やしていく必要が挙げられます。

女性、若者、高齢者等の多様な働き手の雇用
これまで採用ターゲット要件に加え、女性や高齢者、外国人労働者等の多様な働き手に選択肢を広げることも新たな対応策として挙げられます。例えば、結婚・出産を経て未就業となった女性や、シニア層、さらに日本に働きに来ている外国人労働者などの雇用です。また、テレワークを導入することで、遠方に住んでいる人を雇うという選択肢も増えます。コロナ以降テレワークを取り入れる会社は増えています。テレワークのような働き方の変化とともに、雇う人材も変化させていくことも新たな方法として考えられるのではないでしょうか。

※資料「2017年調査/就業構造基本調査 / 平成29年就業構造基本調査 / 結果の要約・概要・主要統計表
(総務省統計局)を加工して作成。(2021年12月21日アクセス)

生産性の向上

人材を確保するために、多様な働き手へアプローチしていくという方法を紹介しました。しかしながら、少子化と人口減少は少なからず国内で進んでいくことになることには変わりません。それに付随し「人を雇う」ということ自体がより難しくなっていくことには何ら変わりません。そのため今後持続可能な会社を続けていくためには、「新たに人を雇う」という視点のみならず、「業務の生産性を上げ、少ない人で業務をまわす」という視点も同時に検討が必要になってきます。

DXの推進
現在ではAI、IoT、RPAなどの導入に伴い、業務の効率化が可能となっております。例えば、アナログからデジタル化を進めることで作業時間の短縮化を図るなど選択肢の1つとなるでしょう。

リカレント教育の推進
同時に一人ひとりの質を上げていくことも、生産性を向上させるための方法として検討できます。人材を積極的に育てるということに関して、例えば、IT技術など新しい技術に対応する「リカレント教育」jというものがあります。厚生労働省と経済産業省、文部科学省が連携して、リカレント教育の費用の支援やキャリア相談が現在行われていますj

またキャリアコンサルティングなども無料で試行jしています。このような支援を活用して、企業でもIT技術の導入と同時にリカレントk教育の推進も行っていくことで、社内の業務効率化や生産性の向上へとつながっていくのではないでしょうか。

まとめ

国内の出生率の減少と少子高齢化の影響は、深刻な労働力不足という新たな社会問題が生まれました。従来の生産年齢人口が徐々に減るうえ、若者の失業率が増えています。このような状況下で、中小企業は大企業と比べて新卒採用による人員の確保が難しくなってきたことにより、通年採用に切り替えるケースも増えてきています。今後、さらなる労働力不足と人材確保の困難に伴い、企業は新しい施策を打っていく必要があります。

キャリアチェンジや未経験者の採用を増やすことや、今まで雇用機会に恵まれてこなかった人たちを採用ターゲットに入れるなどが挙げられます。それに加え、DXの推進や人材教育等に投資を増やし、生産性を挙げていくこともできます。このように、時代の変化に合わせ、企業も採用の際に柔軟に対応していくことが今後求められていくでしょう。


a 「人口推計」2020年4月14日公表。(総務省統計局)(http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/index.html)参照。(2021年12月21日アクセス)
b 平成29(2017)年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表。
「令和2年版高齢社会白書」推計(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_1_1.html)参照。(2021年12月21日アクセス)
c「令和3年度 人口動態統計特殊報告 出生に関する統計」2021年7月30日公表。(厚生労働省 人口動態・保険社会統計室)(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450013&tstat=000001156366&cycle=8&stat_infid=000032109974&tclass1val=0)参照。(2021年12月21日アクセス)
d 第11表年齢階級別労働力人口(「労働力調査」2021年11月30日公開。)(総務省統計局)(http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm)参照。(2021年12月21日アクセス)
e 第12表年齢階級別就業者数(「労働力調査」2021年11月30日公開。)(総務省統計局)(http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm)参照。(2021年12月21日アクセス)
f 第13表年齢階級別完全失業者数(「労働力調査」2021年11月30日公開。)(総務省統計局)(http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm)参照。(2021年12月21日アクセス)
g「独立行政法人労働政策研究・研究機構」の略称。
h「第38回 ワークス大卒求人倍率(2022年卒業予定)」2021年4月27日公開(リクルートワークス研究所)の統計結果を参照。(https://www.works-i.com/research/works-report/item/210427_kyujin.pdf)(2021年12月21日アクセス)
i マイナビジョブ20‘s「【2021年更新】第二新卒とは? いつまで? 転職市場で求められているのは本当か?」から引用。(https://mynavi-job20s.jp/guide/guide02.html)(2021年12月21日アクセス)
j 「リカレント教育」(厚生労働省)を参照。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18817.html)(2021年12月21日アクセス)

執筆者
リーガルワーク転職 編集担当

この度は記事を読んでいただき、ありがとうございます。
「リーガルワーク転職 編集担当」として、これから、ご採用の際にお役立ちするコラムをたくさん載せていく予定です。至らないところもありましたが、皆さんへの心から感謝と共に次の記事も暖かく見守っていただけると嬉しく思います。

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